ナノさんが最近、海外ファンに向けて「フォロー・視聴・コメント・シェア」をして、日本のアーティストが海外ツアーを正当化できるよう支援してほしいという心のこもったメッセージを投稿した。その想い自体は本物だ。しかし、多くのJ-POPファンはこの投稿に対してフラストレーションを示した。善意から出たアドバイスではあるものの、実際にファンの行動がどのようにチケット売上へ結びつくのか、そしてファン側がどのように感じているのかを単純化しすぎているからだ。この記事ではナノさんの投稿を振り返りながら、私自身の考えを述べていきたい。
「フォローして、チャンネル登録してください」
フォローや登録は支援の形ではある。だが、それはあくまで受動的なエンゲージメントであり、受動的なエンゲージメントはチケットを売らない。Spotify自身のデータによれば、スーパーファンは月間リスナー全体のわずか2%しか占めていないにもかかわらず、プラットフォーム経由のチケット売上の50%を占めている。残りの98%、つまりプレイリスト経由で気軽に聴き、ときどきフォローする程度のリスナーは、ライブ収益にはほとんど貢献していない。
受動的な関心を示す指標にはなるが、それだけでは海外公演を正当化するには不十分だ。ファンに「もっとフォローして」と呼びかけても、ツアー判断を左右するほどの効果はない。
「コメントやシェアで反応してください」
投稿のシェアやコメントも、やはり受動的な行動だ。可視性は生むが、金銭的な意思表示にはならない。実際にライブへ足を運ぶのはスーパーファン、あるいは熱心なファンだ。自ら音楽を探し、グッズを買い、遠征までしてライブに行く人たちである。
Spotifyの調査によれば、スーパーファンは音楽をシェアする可能性が9倍高く、さらにツアーやグッズに対して1か月で25ドル以上支出する傾向がある。こういう人たちは、わざわざ「コメントしてください」と言われる必要がない。すでに深く関わっているからだ。
さらに、どのようなファンが実際にライブへ来るのかについても研究結果が存在する。ニューカッスル大学によるコンサート参加行動の研究では、ライブ参加や遠征への意欲は「ファン・アイデンティフィケーション」、つまりアーティストへの愛着の強さと密接に結びついているとされている。
グッズを購入するファンは、その愛着度が高いと一般的に考えられており、ライト層よりもライブへ行く可能性が遥かに高い。要するに、グッズ購入者こそ最も有力なコンサート来場者なのだ。彼らはツアー発表前の段階で、すでに金銭的意思を示している。
問題は、日本のレーベル構造が、海外ファンによるその意思表示をマネジメント側に「見える形」で届けにくくしている点にある。
「海外ツアーにはもっとお金がかかる」
これは事実だ。しかし、問題の捉え方としてはズレている。欧米や韓国のアーティストも、海外ツアーでは当然リスクを負っている。問題は「ツアーにお金がかかるかどうか」ではない。ツアーには常にお金がかかる。
本当の問題は、「そのリスクを取るだけの需要が確認できているか」だ。
ここに核心がある。
海外のスーパーファンは、日本のマネジメントからほとんど“見えていない”。
多くの日本アーティストやレーベルは、海外向けに直接グッズやCDを販売していない。海外ファンは代理購入サービスを利用するしかなく、その売上は「国内売上」として処理される。
例えば、ドイツのファンがCD・Tシャツ・写真集を買ったとしても、レーベル側から見ればその購入は「日本国内」で発生した扱いになる。ヨーロッパからの需要を示すデータは存在しない。
需要そのものは確実に存在している。ただ、それを計測するインフラが存在しないだけなのだ。
さらに、現実的な期待値の問題もある。日本武道館を埋められるからといって、海外でも同規模会場を埋められるわけではない。日本はホーム市場であり、長年の国内プロモーション、メディア露出、文化的背景がある。海外では、ほぼゼロからのスタートに近い。
海外ツアーやフェス出演に成功しているアーティスト――水曜日のカンパネラ、BABYMETAL、花冷え。、ぜんぶ君のせいだ。、ゆるめるモ!、Broken By The Scream、唯美人形――は、国内と同規模の成功を最初から期待していたわけではない。小さな会場から始め、需要の集中する地域を見極め、徐々に拡大していった。
水曜日のカンパネラはその好例だ。日本では日本武道館を完売させている一方、2025年のヨーロッパツアーではロンドンのHeaven、ミラノのLegend Club、パリのPetit Bain、そしてポーランドのOFF Festivalへの出演といった、中規模〜小規模の会場を回っている。武道館とは比べものにならない規模だ。
つまり、海外展開は可能なのだ。ただし、それには「海外でも国内と同じ格式を維持すること」ではなく、「実際にファンへ届くこと」を優先するマネジメントの姿勢が必要になる。
「チケットが出たら絶対に逃さないで」
正直に言えば、多くの海外ファンにとって、今の仕組みではそこまで辿り着くことすら難しい。
この発言の問題点は、すべての責任をファン側へ押しつけている点にある。しかし、そもそも「その機会を作るかどうか」を決めているのはアーティストのマネジメントであり、その判断材料となるデータ自体が、現在は海外需要を正確に反映していない。
そして、おそらくここが多くのファンに最も刺さった部分でもある。
なぜなら、多くの海外ファンは「自分の国に来てくれる」という期待をすでに半ば諦め、日本までライブを見に行こうとしているからだ。ところが、そこには数多くの障壁がある。
利用可能なクレジットカード、日本の電話番号、場合によっては日本在住資格まで要求される。ファンクラブ加入が前提で、その上でチケット抽選に参加し、しかも当たる保証はない。
さらに、抽選結果が出る前に日本旅行を計画しなければならないケースも多い。国によっては、日本の電話番号を取得するためだけに一度日本へ行かなければならないことすらある。
他国と比較すると、日本でアーティストのライブを見るためのハードルは異常なほど高い。
ちなみに、小規模な地下アイドルやインディーズ系アーティストのライブでは、当日券購入が可能だったり、外国人にも比較的使いやすいLivePocketを採用しているケースも多い。
つまり、これは「海外ファンの熱意不足」の問題ではない。海外ファンは、信じられないほどの苦労をしてでもライブへ行こうとしている。
問題は、「なぜ業界側がここまで難しくしているのか」なのだ。
本当に必要なのは何か
幸いなことに、この問題を解決するために、日本のアーティストが活動スタイルを変える必要はない。
英語詞を書く必要もない。 リブランディングする必要もない。 K-POPのように西洋市場へ最適化しすぎて、本来の文化的個性を薄める必要もない。
日本のアーティストは、そんな道を辿る必要はない。
必要なのは、もっとシンプルなことだ。
海外向けに公式でグッズや音源を販売すること。
それだけでいい。
オランダのファンが公式ショップ経由でCDを購入すれば、それは「西ヨーロッパからの需要」というデータになる。同じ地域から十分なデータが集まれば、海外ツアーは経済的に合理性を持ち始める。
あのちゃんのようにToy Factoryがバックについている規模のアーティストなら、これは十分実現可能な話だ。物流面で不可能な理由はない。
特に、より少ないリソースしか持たない地下アイドルですら、外国人ファンへの対応に積極的なケースが多いことを考えればなおさらだ。
最後に、今できること
※この章は主に海外の読者に向けた内容です。
では、代理購入サービス経由でグッズを買うのをやめるべきなのか?
必ずしもそうではない。欲しいものなら買えばいい。ただし、「それが海外需要のアピールになる」と期待してはいけない。レーベル側からは見えないからだ。
例外は、小規模な地下アーティストである。
代理購入したグッズをSNSに投稿し、グループ名やアーティスト名をタグ付けし、届いた商品を見せれば、本人たちが目にする可能性は高い。小規模アーティストにとって、そうした海外からの直接的な反応は本当に意味がある。
しかし、大手レーベル所属アーティストでは、この方法はスケールしない。あなたのツイートを本人や運営が目にする可能性は低く、管理側が見ているのは販売データだ。そして、その売上は「東京で発生した国内売上」として処理されている。
もし大手アーティストと同時に地下アイドルのような小規模アーティストも好きなら、個人的には、小規模アーティストへお金を使うことをおすすめしたい。彼らのほうが反応を見てくれる可能性が高く、感謝もされやすい。そして何より、本当に支援を必要としている。
一方、大手アーティストについては、所属事務所やレーベルへ丁寧にメールを送るのが現実的だろう。返答は来ないかもしれないし、すぐに何かが変わることもないかもしれない。だが、十分な数の人が声を上げれば、何かが変わる可能性はある。
ただし、アーティスト本人を責めたり困らせたりしてはいけない。彼らに決定権はほとんどない。基本的には会社員のような立場だからだ。
“見えないファン”は、ファン側の問題ではない。
これはインフラの問題だ。
そして、それはレーベルがその気になれば、明日からでも改善できる問題なのである。